研究概要 |
1.生体適合性に優れた糖質を含むシスプラチン誘導体の開発は、水溶性の向上、毒性の軽減ならびに腫瘍選択性を目指すものであり、重要な研究課題である。本研究では、キラルな2,3-プロパンジアミンにO-グリコシド結合により糖を導入した配位子の合成を行い、それらを用いてシスプラチン型Pt(II)錯体の合成を行った。 2.アセチル保護基を有するD-グルコースと2,3-ジブロモ-1-プロパノールから、目的とする配位子(2S)-1-β-D-Glc-pn)を合成した。同様の方法で、(2R)-1-β-L-Glc-pn),(2S)-1-β-D-Xyl-pn)を合成した。合成中間体であるジアジド体のジアステレオマー分割を行い、光学的に純粋な不斉エチレンジアミンをえた。またジアジド化合物のX線結晶構造解析を行った。さらに、得られた配位子をテトラクロロ白金(II)酸カリウムと反応させ[PtCl_2((2S)-1-β-D-Glc-pn)],[PtCl_2((2R)-1-β-L-Glc-pn)]および[PtCl_2((2S)-1-β-D-Xyl-pn)]の合成を行い、^1HNMRスペクトル、円偏光二色性スペクトルより、溶存状態における構造を推定した。 3.ジアジド体のX線結晶構造解析の結果、それぞれの配位子は、糖ユニットのピラノース環が、β-^4C_1chair型であった。また、((2S)-1-β-D-Glc-pn),((2S)-1-β-D-Xyl-pn)のエチレンジアミン部位の絶対配置はS、((2R)-1-β-L-Glc-pn)の絶対配置はRと推定した。それぞれの白金錯体は、白金1原子に対して、配位子1分子、塩素2原子、水1分子を含むことが元素分析より確認された。また、溶存状態におけるキレート環のコンホメーションは、[PtCl_2((2S)-1-β-D-Glc-pn)],[PtCl_2((2S)-1-β-D-Xyl-pn)]はλ-ゴーシュ、[PtCl_2((2R)-1-β-L-Glc-pn)]はδ-ゴーシュであると推定される。現在、これらの白金錯体のマウス移植白血病(P388cell)に対する制癌効果の検定中である。
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