多座配位子、マクロ環配位子、カルボキシラト配位子を用いて、錯体内に3個から20個くらいの少数個の金属を含む少数核金属錯体の合成法の確立とこれらの錯体の構造と磁気的特性の相関関係を明らかにすることを目指して研究を行った。 多座配位子を用いる方法ではアルコール基、フェノール基あるいはチオール基を架橋基として導入した三座、四座、五座のキレート配位子を合成することによって少数核形成の可能性を探った。チオール配位子は直線型及び環状三核錯体、螺旋型多核錯体を与えた。マンガンや鉄錯体ではこれまでに例がほとんど無い二等辺三角形型三核錯体やアダマンタン類似型四核錯体を単離できた。これらの錯体の磁気的性質はスピンフラストレーションを起こす系であるが、ハイゼンベルグ模型で説明でき、反強磁性的相互作用が働いていることがわかった。五座配位子ではキュバン型四核錯体、五核錯体、不完全キュバン型三核ユニットが接合した六核錯体が合成できた。また八角柱型や台形型キュバン2個が組合わさったような亜鉛八核錯体も合成できた。 マクロ環を用いる方法では二核錯体の他に四核錯体も得ることができた。 カルボン酸架橋二核ユニットを用いる系では軸配位子の水分子が水素結合によりつながった四核錯体を単離することができたが、多くの場合、一次元鎖状の多核錯体が得られた。架橋配位子でこれらのユニットをつなぐ方法では安息香酸銅の場合、疎水的な環境を持つ細孔構造が形成されることがわかった。ルテニウム二核と有機ラジカルの組み合わせでは強磁性的相互作用を見出すことができた。銅錯体では、アルコキソ架橋とカルボン酸架橋が交互に配列した四核錯体や環状の六核錯体を単離することができた。これらの錯体の磁気的性質は反強磁性的なものであった。
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