研究概要 |
(1)シベリア民族の343個体に関しHLAクラスIIDRB1,DQA1,DQB1によるハプロタイプの解析を行った。各遺伝子座の対立遺伝子はいずれも他の地域集団にも普遍的に存在する。それにもかかわらず、シベリア集団では、総数121ものハプロタイプが見い出された。この内94はシベリア特異的で、この数は今までに世界中で同定されてきたハプロタイプの総数をしのぐ。その原因は、通常ではヘテロ二量体を形成できないDQA1とDQB1の対立遺伝子の組み合せから成るハプロタイプが、ここ数世代の間に遺伝的組換えにより形成されていたことによる。一方残りの27ハプロタイプは、シベリアと他の地域集団に共通に存在した。これらの共有ハプロタイプは、地域集団間での遺伝的交流によるよりも4万年以前にシベリア集団が形成されて以来伝達されてきたことが明らかになった。 (2)ヒトと比較のできるチンパンジー・ゴリラ・旧世界猿・新世界猿の入手可能な遺伝子のDNA配列の相違と集団遺伝学の理論からこれらの霊長類各種の分岐年代と分岐時の集団の繁殖個体数の推定を行った。その結果、ヒト系統が新・旧世界猿から分岐した時期は、最新の古霊長類学の知見と一致し、また5500万年にわたるヒト系統の世代当りの繁殖個体数には大きな変動があったことを示した。これらは、DNA配列データから生物の歴史を復元する一つの新しい視点を開拓した。 (3)現代人(ホモ・サピエンス)の起源に関する仮説である多地域起源説の定量化を行いその妥当性を検討すると共に、ミトコンドリアDNAの解析を未調査のシベリア・東南アジア・オセアニアの先住民族に広げた。どちらの研究からも、対立仮説である単一起源説を支持する結果を得た。 (4)本年度予定していたチンパンジーのゲノムライブラリーの構築に先がけ、まずゴリラゲノムライブラリーを作成した。
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