研究概要 |
1.菌細胞内共生体においてシンビオニンが構成的,かつ多量に発現される分子機構を調べた結果、シンビオニン遺伝子の発現は大腸菌groEと同じく,転写開始因子シグマ32の支配下にあることがわかったが,共生体のシグマ32遺伝子(rpoH)は大腸菌のそれと違って,熱ショックには応答しないことが明らかになった. 2.共生体内においてGroELホモログのシンビオニンからエネルギー共役的にリン酸基転移を受けるタンパク質の一つとして,ヒストンH1のホモログが同定された. 3.3種の近縁なアブラムシからのシンビオニン遺伝子の構造の比較から,シンビオニンは分子シャペロン活性にとっては中立的な部位への変異を通じて,同族のGroELにみられない新たな機能を獲得したことが示唆された. 4.若齢虫および老齢虫から得た菌細胞共生系における遺伝子発現をディファレンシャルディスプレーおよび定量的RT-PCR法によって比較した.その結果,宿主昆虫の加齢に伴って発現量の低下する遺伝子が共生体側にも,菌細胞側にも検出された.これらの遺伝子産物は共生系の活性が保たれるのに不可欠な機能を果たしているタンパク質であった.また,菌細胞共生系では宿主の加齢に伴って,逆に一過的に発現の高まる遺伝子のあることも判明した.このことは,菌細胞が一方では共生体のある遺伝子群を活性化し,他方ではそれのもつ他の遺伝子群の発現を抑制することによって,共生系の機能は保たれていることを示している.
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