研究概要 |
トンネルスピン磁気抵抗効果を用いたデバイスを作製するため,過去3年間にトンネル接合の基礎物性,接合素子の評価のための装置の作製並びにデバイス化に直接かかわる微細加工プロセスの確立に関して研究を行なってきた.それぞれについて主な成果をまとめる. 1. トンネル接合の基礎物性に関して トンネル磁気抵抗(TMR)変化率は両磁性層のスピン分極率,絶縁障壁の高さおよび幅に依存する.これらの点について実験的に明らかにし,その間に報告された理論的研究の比較検討も併せて行なった.また,TMR比の温度並びに印加電圧依存性はデバイス化にとって重要である.種々の接合についてこれらの依存性を調べその原因を明らかにした.更に,強磁性層の一つをFeMn又はIrMn反強磁性層でピンすることにより,温度変化が少なく,V_<1/2>が0.5Vと印加電圧依存性の少ない接合を作製することができた. 2. 評価装置の製作 トンネル接合素子の絶縁層(アルミナ)は約13Åと非常に薄く,その絶縁性は酸化の状態により著しく変わる.また,絶縁層は強磁性層と接しているため両者の界面構造がTMR比の温度依存性等に大きく影響する.これらの点を解明する非弾性電子トンネル分光(IETS)装置の開発を行ない,界面状態の構造と分光スペクトルとの対応を明らかにした.また,カー効果を利用して40×40μm^2の微小接合部のカーヒステリシスを測定できる装置を製作し,接合部の磁化と接合の磁気抵抗曲線が対応することを明らかにした. 3. 微細加工プロセスの検討と微小トンネル接合素子の作製 フォトリソグラフィーおよびArイオンミリングを用いて,微小トンネル接合を作製するプロセスを検討した.プロセス中の再付着が接合をショートし,電磁気特性が劣化するが,Arイオンのミリング入射角度,ミリングの深さを最適化することにより,再付着フリーの接合を作製できることを明らかにした.また,リード電極内の電気的絶縁に用いたSiO_2膜にコンタクトホールを作製するプロセスとして,CF_4ガスを用いたプラズマエッチング法が適していることを明らかにした. 確立したプロセスにより,最少接合面積3×3μm^2,トンネル抵抗値500Ω,TMR比の15%の微小トンネル接合素子ができ,これらの特性を有する素子は再生磁気ヘッド,MRAM等のデバイスとして非常に有望であることを示した.
|