研究概要 |
イオンビームスパッタリング法によって生成したSUS304鋼薄膜への各種添加元素の効果を検討した。基材となるSUS304鋼および添加元素をそれぞれ独立のイオンビームでスパッタして合金化した。検討した添加元素は、Al,Ti,Si,Cu,Nb,Mn,Mo,Wである。これらの合金元素の効果は従来より検討されてきたが、これらの多くは析出物の形成、組織の変化を伴うために不働態皮膜に対する化学的効果は明らかでなかった。イオンビームスパッタリングを用いることにより、介在物などはスパッタリングの際に分解蒸発し基盤中には固溶あるいは均一に分散する。Nb,Mo,Wは活性溶解を低減し、塩化物水溶液中での耐孔食性を著しく向上させる。また、Tiも耐孔食性を高める。一方、Mn,Al,Cuは塩化物水溶液中での耐孔食性低下させ、特にMn,Cuは著しい。 一方、紫外線照射による不働態皮膜の改質効果に関する検討では酸性水溶液中にてFe-Cr合金の不働態化最初期過程にて紫外線を照射すると皮膜中のCr濃縮を加速させ耐食性を強化できることが明らかとなった。酸性溶液中でのFe-Cr合金の不働態皮膜の半導体的性質はp型であることが知られていたが、最初期過程はn型であり皮膜の形成に伴なってp型に変化する。紫外光によるCr濃縮効果はこのn型段階で主に生じることが分かった。さらに、TiAl金属間化合物へのイオン注入による耐高温酸化性強化に関する検討では、Mo,Nb,Clは耐酸化性を向上させるが、Clの効果は少量で著しい、一方Si,Zrでは効果は初期のみに効果があった。イオン注入は大きくても100nm程度の表面改質であるが数μmの酸化皮膜を生成する段階まで効果が持続し、さらにその後の酸化をほぼ停止できることが明らかとなった。
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