研究概要 |
金属材料の耐環境性は表面に生成する酸化物皮膜の環境遮断性によりもたらされる。従って、表面皮膜の構造が材料の耐環境性を大きく作用する。このために、耐環境材料の表面制御が重要であり、本研究では原子・分子レベルのナノ構造の制御により優れた耐環境性を得るために、本年度は(1)光照射による不働態皮膜の改質による耐局部腐食性強化、(2)変調電解法による構造規制ポーラス皮膜の生成、(3)スパッタFe-Cr合金への微量元素添加による不働態皮膜の安定性制御を行った。 (1)では、中性塩化物溶液中にてType304ステンレス鋼の不働態過程にて紫外光を照射すると孔食発生が抑制されるが、これは光励起電子・正孔対が再結合する際のエネルギー放出により皮膜内欠陥密度を増大させるとともに、皮膜内電位分布を変化させることによって皮膜内Fe^<3+>イオンの優先拡散を促進し、皮膜内Cr濃縮を高めたことによることが明かとなった。(2)ではFe-22Ti合金を希硫酸中でFe,Tiの活性態電位とTiの不働態電位とを繰り返し分極することにより、Tiが濃化したポーラス構造を持つ0.1μmに達する厚い皮膜を生成した。これは、TiO_2同様の光触媒能を示すとともに、生体適合性と下地鉄系構造材料との高い密着性とを兼ね備えた優れた表面機能材料と生成に発展可能である。(3)では様々な合金元素を微量添加したFe-18Crの合金薄膜について、塩化物イオン中での孔食挙動、希硫酸中での再活性化挙動より不働態皮膜の安定性に及ぼす微量元素の作用を検討した。これより、Nb,Moは耐孔食性、酸性溶液中での還元再活性化を防止することの双方に高い効果を示し、Niがこれに続いた。Ti,Mnは耐孔食性をやや悪化させるなど、これまで鋼中析出物として局部的効果を示す元素が、不働態皮膜全体にどのように作用するかを多数の添加元素について明らかにした。
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