研究概要 |
本研究の目的は,キャピラリー電気泳動による金属錯体やイムノコンプレックスなどの分子錯体に対する新たな分離機能と検出機能の創発にある.本年度は昨年度にひきつづき,(1)新しいCE分離モード・システムの開発,(2)CE分離場を意識した不斉識別機能分子の開発,(3)CE-金属イオン分離に適合する配位子の分子設計アプローチの方法確立,の3点を重点的に検討するとともに,環境化学分野への適用の一環として,水中フミン質のキャラクタリゼーション法としてのCEシステムの評価を行った. (1)昨年度は,溶液内のイオン-イオン相互作用を駆使するCE分離システムとしてキャリア溶液中にカチオン性高分子電解質を加える方法を着想し,ポリアミノカルボン酸(EDTA,Quin2)錯体を精密分離することに成功した.本年度はこの手法を拡張して,高感度錯体システム(例えば4-(2-ピリジルアゾ)レソルシノール錯体)と一般的無機イオンの同時分離検出法を開発した. (2)フェノール4分子を硫黄原子で環状に架橋した新しい型の配位子,チアカリックスアレーンの簡便な合成法を確立した.チアカリックスアレーンはO,S,O原子で遷移金属に配位することを見いだし,KD-CE適合試薬として機能することが期待される.また,OH基に,エトキシカルボニルメチル基やカルボキシメチル基を導入し,それぞれアルカリ金属,遷移金属の有力な配位子としての機能させることに成功した.一方,芳香族求核置換反応を開発し,フェノールのO原子をNに置き換えることに成功した.以上のようにチアカリックスアレーンを基体とし,多様なKD-CE適合性試薬を合成できることを見いだした。 (3)密度汎関数法,分子動力学法,コンピュータグラフィックスを活用することにより,種々の金属錯体について,配位子の置換位置、配位子の種類がその構造に与える影響を解明するとともに,その分子認識機能をどのように変化させるかを原子レベルで明らかにした. (4)分子ふるいモードCE(ポリアクリルアミドゲルやセルロースを分離媒体とする)によるフミン酸およびフルボ酸の分離とピークパターン化を検討し,それらとアルミニウム,鉄,およびカルシウムイオンとの錯形成反応,および塩素やオゾンによる酸化分解反応を追跡モニタリングすることに成功した.
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