研究概要 |
本研究では,カイコ脳から新しい神経情報伝達分子を単離し,構造決定してその機能を明らかにするものである. 本年度の成果としては、新規の脳タンパク質(27kDa)の遺伝子を解析し,ORFからシグナルペプチドの存在,開始コドン,タシパク質の推定全アミノ酸配列,終止コドンを明らかにすることができた.さらに,ノーザンブロッティング法により中枢神経系,脂肪体,唾腺とマルピーギ管の各組織器官について検討したところ,脳-食道下神経節-胸部第1神経節のみで発現しており,中枢神経系のみで発現する遺伝子であることが判明した.現在は,バキュロウイルスの発現系を利用しながら,この新規タンパク質の大量発現を進行中である. 一方,次世代に休眠卵を産出するように環境情報(温度と日長)をコントロールされた5齢幼虫の後期では,脳内のヌクレオチドの三リン酸型(ATP,UTP)が,非休眠卵を産出するようにコントロールされたものより,増大していることを明らかにした.このことから,脳内では,環境情報→27kDaのタンパク質合成→ATP,UTPの増大→→食道下神経球からの休眠ホルモンの分泌促進という系が確立しつつある. この系は,昆虫のみならず,生物界における神経情報伝達系の共通原理にもかかわることであって,最終年度はまさにこの点に集約される.従って,論文による発表は慎重かつ一括して発表する.
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