研究概要 |
1. 脱窒真菌Fusarium oxysporumおよびCylindrocarpon tonkinenseの脱窒系は真核生物の呼吸器官であるミトコンドリアに局在すること、およびミトコンドリア画分に脱窒酵素(硝酸塩還元酵素、亜硝酸塩還元酵素)活性が再構成され、これら活性に共役してATPが合成されること等を明らかにした。これらの結果は、ミトコンドリアに脱窒系が存在し、嫌気呼吸系として働いていることを初めて発見した成果となった。 2. 真菌脱窒系構成成分であるP450norは、P450スーパーファミリーに属しながら特異な反応機構をもつことで世界的に注目されている。F.oxysporumのP450norのX線結晶構造解析に成功し、その反応機構解明に大きな進展を得た。 3. 微生物系統上重要なtaxaを形成する酵母と放線菌には未だ脱窒活性の存在は知られていなかった。そこで酵母および放線菌の脱窒菌の検索を行い、多くの脱窒菌を発見した。放線菌Streptomyces thioluteus、酵母Trichosporon cutaneum,Fellomyces fuzhouensisの脱窒系の解明を行い、T.cutaneumにP450norを発見した。放線菌S.thioluteusから亜硝酸塩還元酵素(Nir)とアズリンを単離した。 4. カビ脱窒系構成成分のうちこれまでに、P450nor、亜硝酸塩還元酵素(Nir)、アズリンが単離されている。その他の構成成分の単離を試みた。F.oxysporumより硝酸塩還元酵素(Nar)を精製し、その性質を調べた。その結果、サブユニット構成や酵素学的性質等、大腸菌や脱窒細菌で知られる膜結合型Narに酷似していた。C.tonkinenseのNirはミトコンドリアに局在し、膜結合型であり、これを可溶化後精製した。その性質は従来の脱窒細菌のNirとは似ておらず、唯一、古細菌Haloferax denitrificansの銅含有型Nirに似ていた。その他、フラボヘモグロビン、シトクロムC_<549>、P450foxy等を単離し、性質を明らかにした。 以上の成果により、カビ、酵母、放線菌など、従来脱窒能の存在が知られていなかった重要微生物群に初めて脱窒系の存在が明らかとなり、真核生物(カビ、酵母)の脱窒系がミトコンドリアで機能することが示された。これらの結果はミトコンドリアの新規呼吸系の存在を明らかにしただけでなく、呼吸系の進化と機能に関して重要な知見と今後の課題を提供した。
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