研究課題
基盤研究(A)
本報告書では、二段林型の複層林を対象に、生理生態、情報管理(調査、成長と予測など)、経営の評価などの観点からシステムとしての複層林経営型の姿を総合的に明らかにすることを目的にしたものである。第一章では、複層林の生態的構造を、1)造林学、2)植物社会学、3)森林土壌動物学の三つの観点から明らかにすることを目的としており、ここでは主として、複層林への人為的干渉(間伐など)が下木の成長、下層植生の繁茂、土壌動物の生態などにどのようなインパクトを与えるかを究明している。第二章は、林分構造と林分成長面に情報科学の観点から数理的分析を加えたもので、複層林の施業指針の作成にまで言及している。内容は、1)リモートセンシングによる情報収集の可能性、2)人工複層林の成長モデルの構造とそれにより成長予測、3)針広混交複層林の成長解析、4)施業指針の作成の四節からなる。第三章は、林業経営の見地から、複層林の経済的・社会的分析を試みたものである。ここでは、まず費用便益分析の観点から和歌山県熊野川流域のU林業を事例に経営の収益性が検討される。次いで、森林印認証の視点に立って、観光保全型の森林経営の典型である複層林経営に対して、経営の生産面(持続性など)、環境保全面(生物の多様性など)、企業的経営面(財政面、施業指針の文書化、情報開示など)等の側面から総合的な考察を加えている。さらに、持続可能な森林経営の観点から、複層林に最も近い位置にある択伐林を取り上げ、林業経営としての資本評価を試みた。持続可能な森林経営を実現していくためには、その森林生態的な施業システムを確立することに加えて、それらを指導するところの経営としての資本概念を明確にする必要がある。最後に、より包括的な見地から、持続可能な森林管理のための「多次元資本評価」の方法を提案している。
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