研究概要 |
本年度は主にアンジオテンシノーゲン欠損マウス(Atg-/-)における臓器・細胞機能の変化に関するin vivoおよびin vitroでの検討を行った. (1)Atg-/-の電解質代謝に関する基礎的検討:代謝ケージを用いた検討にて,Atg-/-は低血圧,多尿を呈し,尿中Na・Cl排泄量は低い傾向を示した.また,尿中アルドステロン排泄量は著明に低下し,血漿ADH濃度および尿中カテコールアミン排泄量は増加していた.以上からレニン・アンジオテンシン系が血圧維持および水電解質調節に必須であり,Atg-/-において賦活化されたADHおよび交感神経系はレニン・アンジオテンシン系の欠損を十分に代償し得ないことを明らかにした.現在塩分負荷の影響について検討中である. (2)Atg-/-の腎血管の形態異常についての検討:Atg-/-においては腎の形態異常が報告されているが,Atg-/-の諸臓器の血管について生直後から55週まで経時的に光顕的に検索を行った.そして腎血管特異的に生後1週から高血圧と老化の存在なしにて良性腎硬化症に類似した弾性線維の増生,血管平滑筋細胞過形成,およびレニン含有細胞の増加を認めた. (3)レニン遺伝子発現調節における神経型一酸化窒素合成酵素(N-NOS)の役割についての検討:Atg-/-の腎ではレニン遺伝子の過剰発現がみられるが,Atg-/-の腎の緻密斑においてN-NOSの発現がmRNAおよび蛋白レベルで増強していることを明らかにし,緻密斑でのNO産生の増加がレニン遺伝子の過剰発現に関与している可能性を示した.現在,Atg-/-の腎でのレニン遺伝子発現調節におけるc-Jun蛋白質の関与について検討中である.また消化管でのレニン遺伝子発現調節についても検討中である. (4)Ang II受容体発現調節についての検討:Atg-/-の心についてligand binding assayおよびNorthern hybridizationを行い,定常状態のAng II受容体(AT1,AT2受容体)について検討し,Atg-/-のAT1受容体のmRNAでは変化がないものの結合能が増加していることを明らかにした.現在,中枢(視床下部,脳幹部),腎,および消化管でのAng II受容体(AT,AT2受容体)について塩分負荷の影響を含めて検討中である.
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