1) マウス骨髄中の造血幹細胞と造血前駆細胞のフェノタイブを明らかにし、それぞれを分離同定する方法を確立した.また、両者を組み合せて移植することにより僅か一個の造血幹細胞を移植しただけでも長期にわたり高いキメリズムを得ることができるアッセイ系を確立した.結果的に、純化した一個の造血幹細胞を用いてin vivoおよびin vitroで個々の造血幹細胞の分化と増殖の様式を検討できるようになった. 2) 6-8週令のマウス骨髄中に存在する造血幹細胞の頻度は20000-25000分の1であるが、加齢とともにこの比率ならびに絶対数が増加していることが観察された.HPP-CFUや長期骨髄再建能の解析からも加齢に伴う造血幹細胞の増加を支持するデータが得られた. 3) in vivoにおける長期BrdU取り込み実験から、ある一時点では造血幹細胞の2%程度しか分裂していないが、長期的に見ると大多数の造血幹細胞が非常にゆっくりとした周期で細胞分裂を行っていることが示された.同様な所見ははin vitroのクローナルな培養実験でも示され、造血幹細胞が特異な細胞周期の制御機構を持っていることが示唆された. 4) 造血幹細胞の初期分化の様式を解析するため、個々の造血幹細胞をin vitroで培養し、最初の分裂後直ちに娘細胞を分離して培養を続けた.造血幹細胞全体では分化の方向性に一定の方向は見られなかったが、娘細胞間では芽球細胞、巨核球、好酸球が有意に高い頻度で認められ、分化の方向性の決定が完全にはランダムではないことが示唆された. 5) 副次的成果として、マウスの造血幹細胞がCD34陰性分画に存在することが明らかになった.今後、ヒトにおいてもしっかりした造血幹細胞のアッセイ系を確立し、そのフェノタイプを明確にする必要があると考えられた.
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