研究概要 |
【目的】 肝移植後虚血再潅流傷害はグラフトのviabi1ityを低下させる最も重要な因子で、Kupffer細胞が産生するTNFαなどの炎症性サイトカインが主因の一つであると考えられる。しかし、その有効な制御法は,未だ確立していない。今回、Kupffer細胞より産生されるTNFαを特異的に抑制すべく、これまでTNFα.のantisense oligodeoxy-nucleotide(ODN)の移植肝への導入効果について報告してきた膜融合リポソーム(HVJ-AVE-Liposome、AVE)を使い、転写調節因子であるNF-κBに対するdecoyをラット移植肝に導入し、その後のサイトカイン動態を評価した。 【方法】 雄性Brown-Norwayラット220-300gを使用。肝を摘出後、冷乳酸加リンゲル氏液に浸漬中にNF-κBに対するdecoy ODN(2本鎖、20mer)を含むAVE(decoy群)、scranble sequence ODNを含むAVE(SD群)、Balanced Salt Saline(BSS)を含むAVE(Vehicle群)あるいはBSS(コントロール群)の4群に分け、経門脈的に投与した。10分間の門脈並びに肝上部及び肝下部下大静脈のクランブ後、6時間冷保存し、同所性肝移植はKamadaらの方法で行った。再潅流4時間後の血清ALT、LDH、TNFα、CINCを比較した(各n=4)。 【結果】 ALT(U/L)は順に2,885±599、4,299±985、8,367±1,479、4,791±1,244でdecoy群はVehicle群、コントロール群に比し有意に低値であった。LDH(U/L)は17,469±7,581、15,330±4,798、59,863±19,165、35,870±9,774とdecoy群、SD群は他群に比し有意に低値であった。TNFα(pg/ml)は26.9±15.4、26.4±13.3、63.8±18.6、55.5±8.2とdecoy群、SD群は他群に比し有意に低値であったが、CINCでは全群間に有為差を認めなかった。新しい膜融合リポソームをベクターとしたNF-κBに対するdecoy ODNの移植肝への遺伝子導入により、移植後の肝虚血再潅流傷害が改善された。
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