研究概要 |
a. Fibrinogen(Fbg)の遺伝性変異の解析:本年度も新しい変異4つを同定した.(1)臨床的に無症状のFbg Kamogawa IではγArg-275→Ser,血栓症を伴う2つの異常分子.(2)Fbg Tokyo VでγAla327→Thr,(3)南アフリカから依頼されたFbg PretoriaでγCyS-139→Tyrを,また(4)出血を伴うFbg Osaka 1Vではきわめてユニークなβ鎖12アミノ酸残基の延長(停止コドン(TAA)→(AAA)Lysへの変換と次の停止コドンまでの計12残基の付加)を同定した.これらの異常分子で得られた構造-機能関係に関する情報はFbg→Fbg転換反応の分子機構の解明に役立った.中でもFbg Osaka IVは10年来構造異常を追求して来たもので,遺伝子並びに分子レベルで上記のきわめてユニークな変異を証明したものである.今回新たに得られた変異型を組み込んだ結晶解析を米国のグループと共同研究の形で進めて行く事を企画している.(1)は国際誌Thromb.Haemost.に受理され印刷中.(2)〜(3)は構造-機能関係の更に深く追求中で,次年度には論文化の予定である.従前より継続中の諸分子の中,Fbg Marburgは国際誌Bloodに掲載され(91:3282-3288,1998),Fbg Niigataは新たに電顕学的分析の成績を加えて同じBloodに投稿中である. b. 接着分子としてのFbnの分子機作:ヒトglioma由来細胞株の接着・伸展はFbg上では進まないが,Fbnモノマー上では活発に伸展する.この時glioma細胞はβ1-integrinを発現し,2段階の反応を経ることが判明した.すなわち,Fbg分子では分子内部にあり乍らFbnモノマーへの転換に伴って表面に現れる接着活性中心とβ1-integrinが先ず反応する.これによって誘発される接着・伸展の過程で,glioma細胞からfibronectin(FN)が分泌・放出されて細胞外マトリックスに取り込まれると,glioma細胞はこの内因性FNを接着分子として認識し,更に大きく伸展するという現象である.これはglioma細胞だけでなく,種々の腫瘍細胞の増殖と転移の機序を解明する一つの緒口となると考えられる(Thromb.Res.印刷中).
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