研究概要 |
Transmembrane 4 superfamily(TM4SF)は現在のところ約19種のクローニングがなされているが,癌に関連するものはMRP-1/CD9,ME491/CD63,KAIl/CD82である.中でも,前2者のみが固形癌における転移抑制遺伝子としての性格を持っていることを我々は明らかにしてきた.また,両者の遺伝子レベル・蛋白レベルでの減弱,喪失がその腫瘍の悪性度や予後を反映していた.これらはインテグリンα3,α4,α6,β1やTM4SFの他のメンバー自身などと複合構成体を形成しており,この関係は,悪性度が進むほど消失していく.つまり,癌化に伴い,これらの複合構成体はその正常な構造が崩壊していき,癌のprogressionの過程で一層その傾向が鮮明になっていく.初期の段階でまず,KAIl/CD82が減少し始め,ついでMRP-1/CD9が減少してくる.その後,他のインテグリンメンバーの脱落が起きるが,この複合構成体で最後まで保持されているものは,インテグリンβ1及びME491/CD63,TAPAl/CD81である.その結果,KAIl/CD82やMRPl/CD9がこれらの癌において予後因子となると考えられた.このシグナル伝達の上位遺伝子としてp53やRB遺伝子が考えられたが,これらの欠損株に正常遺伝子をトランスフェクションしてみたが,大半の細胞においてTM4SFの発現量に変化は認められなかった.また,臨床材料を用いて,これらの変異とKAIl/CD82,MRP-1/CD9の発現量との関係を検討したが,やはり,一定のシグナリングを肯定するような結果は,得られなかった.また,この両者の発現異常をもたらすものはプロモーターのメチレーションによるものが主体であると考えられた.そこで,MRP-1/CD9のDNAをアデノウィルスに結合させて遺伝子治療を試みた.マウスの肺自然転移株BL6を用いたin vivoの実験では,rAd-MRP-1/CD9のみで85%の肺転移阻止率をもたらすことができた.平均生存期間もrAd-MRP-1/CD9投与群は対象群に比べて有為に延長させた.
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