研究概要 |
脳虚血・低酸素負荷-再灌流・再酸素化後の低灌流は心停止、ショック、脳外傷、脳梗塞等で重篤な病態である。本研究では、再酸素化後の低灌流への白血球および脳血管内皮細胞接着分子の関与および麻酔薬の影響について検討した。まず、ヒト多核白血球を用いて静脈麻酔薬のketamine,thiopentalのCD62L,CD11bの発現に及ぼす影響を検討した。その結果、局所脳虚血に有効であるといわれる濃度のthiopentalは、白血球に対する最大刺激濃度のfMLP(10^<-7>M)およびPMA(2×10^<-9>M)によるCD11bの発現増大を有意に抑制した。CD62Lの発現減少に対しては影響しなかった。吸入麻酔薬の影響はin vitroでは困難なためin vivoにおいて低酸素負荷-再酸素化後の脳酸素化動態および接着分子におよぼすisoflurane(ISO)の影響を検討した。最初は、動物のcranial windowを作成し血管径の変化をとらえたが、開頭することは脳の炎症を亢進させ白血球および脳血管内皮細胞の接着分子発現に影響することから、替わりに非侵襲的な近赤外線分光モニター(NIR)を用いて脳酸素化動態を検討した。従来からの報告によるとISOには脳保護作用があるといわれている。そこで、rat低酸素負荷(5%酸素負荷10分)-再酸素化後の0.5-1.5MAC ISOの影響を観察した。再酸素化後、脳内血液量の指標であるtHb(総ヘモグロビン)は0.5MAC ISOにて有意に減少し再酸素化後の脳低灌流を示した。しかし、1.5MAC ISOでは有意な低下は見られなかった。再酸素化後、CD11bは0.5MACで有意な増加を示したが、1.5MACではその増加は見られなかった。CD62Lは有意な変化を示さなかった。0.5MACにおけるCD11bとtHbおよびHb02の推移は有意な負の相関を示した。一方、1.5MACでは有意な相関は見られなかった。脳血管内皮細胞のICAM-1の発現は再酸素化で明らかに増加したが、定量化してISOの効果をみるのは困難であった。以上の結果から、麻酔薬には接着分子の発現を抑制する作用があり、脳再酸素化後の低灌流から脳を保護する作用があることが示唆された。
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