研究概要 |
脱灰エナメル質の再石灰化機構がin vitroの最適条件下ではエピタキシ-による結晶性成長によることを,高分解能電顕(HREM)観察によって明らかにし得たことから,まず再石灰化時の環境因子として,石灰化阻害因子の一つであるHEBPの影響を調べた。すなわち,HEBPの濃度を10μMおよび10nMとして,脱灰エナメル質に作用させた後,従来から用いている再石灰化液の還流を1日および5日間実施して,脱灰エナメル質表層に生成されるOH-アパタイト結晶をHREMにより観察したところ,HEBPの前処理によって結晶生成量は著しく抑制された。そして,その抑制効果はnMレベルのごく低濃度のHEBPにも認められた。 一方,脱灰エナメル質にフッ素徐放性コート材(F-コート材)を塗布した後に,F-コート材から遊離したFイオンが周辺脱灰エナメル質に取り込まれる様相を,経時的に観察し,周辺脱灰エナメル質がフッ素を取り込むと同時に,再石灰化して行く過程を電子線微小部分析装置(EPMA)を用いて観察することを計画し,実施した。すなわち,F-コート材の一定量を一定面積の脱灰エナメル質に塗布,硬化させた後に,フッ素を含有しない再石灰化液に浸漬し,経時的にその過程を観察したところ,フッ素はF-コート材を塗布した直下の脱灰エナメル質に取り込まれると同時に,それよりも多くのフッ素が周辺脱灰エナメル質に取り込まれることが明らかに示され,また周辺エナメル質の再石灰化が経時的に進行する様相が明らかに示された。
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