研究課題
基盤研究(A)
本研究は、慢性病をもつ高齢者の性の充実を促す援助モデルを開発する事を最終目的としている。研究の初年度にあたり、65歳以上の慢性病をもつ高齢者47名(脳卒中17名、腎不全18名、虚血性心疾患12名)を対象に、老いならびに慢性病による性への影響の実態について面接調査を行い、多面的に総合的に検討した。併せて、高齢者の性への影響に関する医療者(看護婦38名、医師15名)の認識ならびに援助の現状と問題点について面接調査を行った。その結果、性行動への影響は、老いに伴って「性欲ならびに性的衝動・興奮の低下」「性交の頻度の減少」がおこり、多くの高齢者がそのことに関して、「自然の成りゆき」であり、「当たり前の事」として受けとめていた。また、慢性病による性行動への影響としては、明らかに病気を契機として性行動に変化あったと語ったものは少なく、むしろ「年のせい」と捉えているものが多かった。一方で、透析の導入や脳卒中発作の後遺症により明らかに「不能」になったり、「性欲の低下」を来したものもみられた。性役割への影響は、男性、女性によりその受けとめ方に差が認められた。男性は、老いおよび慢性病いずれの影響に関しても、社会から一般的に期待されている男としての、夫としての役割の観点にたって、「権限・威厳の衰退・委譲」を感じているものが多くみられたが、女性は、他者との関係性における自分自身の反応や態度を振り返って「女らしさ」を意識したり、「無理のない範囲で役割をこなす」ことの意味を認めているものが多かった。夫婦の関係性への影響は、それまでの夫婦の在りようにより様々な変化の様相が認められた。看護婦ならびに医師ともに全てのものが、老いならびに慢性病の罹患に伴ってなんらかの性的機能の低下があると認めていたが、知識ならびに認知のレベルに関しては、専門領域や経験年数により違いがみられた。また、現状では多くの医療者が慢性病をもつ高齢者の性に関して援助の必要性を感じそれぞれなりに対応してはいるが、意図的に系統的に指導や援助を行っていないことが明らかになっていた。現在、これらの分析結果と文献的考察に基づいて、高齢者ならびに医療者用双方の質問紙を作成し、面接調査に引き続いて大規模な全国調査を実施し、さらに慢性病をもつ高齢者の性への影響の実態を広く多面的に探っている。