研究課題
基盤研究(A)
本研究の目的は、慢性病を抱えながら人生の晩年を過ごしている高齢者の性の充実を促す援助モデルの開発である。初年度(平成8年度)は援助モデル考案のための基礎的研究として、老いと慢性病から生じる高齢者の性への影響について質的ならびに量的に調査し、それらを多角的、包括的に分析・検討した。次年度(平成9年度)は、基礎調査の分析結果および文献的考察を基に「慢性病をもつ高齢者の性の充実を促す援助モデル試案」を作成し、モデルの内容ならびに構造について、性に関する専門家の助言や研究協力者の意見を考慮に入れて検討を重ねた。そして、洗練した援助モデルに基づき、実践における実用性や適切性を鑑みながら、具体的な実施内容と方法ならびに状況設定などを含む、2つのプログラムを作成した。すなわち、高齢者への直接な援助アプローチである<援助プログラム(みのりの会)>と、援助の前提条件となる<看護婦教育プログラム>である。最終年度(平成10年度)には、作成した2つのプログラムを実践に適用し、それぞれのプログラムの有用性を検討した。その結果、<援助プログラム(みのりの会)>では、実験群と対象群の比較から、「衰えの自覚」「老いの実感」「慢性病の負担感」「活力の減退」「性行動の衰退」「性の援助へのニーズ」に有意差は認められなかったが、「相互親密性の強化」には有意(p<.05)な主効果が認められた。一方、<看護婦教育プログラム>では、「看護婦の性に対する態度」「高齢者の性に対する看護婦の知識および態度」ともに、プログラムのの有無と測定時期に交互作用を認め、プログラムに有意な主効果を認めることが出来なかった。しかしながら、プログラム内容の評価に関する質的な分析結果から、実験群の看護婦は、慢性病をもつ高齢者の性への影響に関する知識が援助の基盤となること、援助者の性への態度の自己認識を高めることの重要性を明確に認識していることが明らかになった。今後、今回の対象者の長期成績を縦断的に追跡調査すること、併せて、その経過の中で、更に、援助モデルの洗練を図って行く必要がある。
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