研究概要 |
本研究は,土壌-植生-大気を一つの連続系(SPAC)としてとらえ,この連続系における水フラックスの輸送の実態を野外観測による実測データに基づいて明らかにし、陸域の水循環に果たす植物,主として樹木の役割を定量的に評価することを目的とするものである.このため,本年度は従来の研究のレビューを行い,当該研究における問題点を整理した.その結果,本研究の目的を達成するためには,樹木の水収支を正確に求める必要があり,そのためにはまず樹体内に含まれる水分量を精度良く測定するための手法を開発する必要があることが明らかとなったため,TDR法(時間領域反射式水分計)によって樹体水分量を測定するためのキャリブレーションと測定精度について検討を行った.また,SPACにおける水輸送の実態を明らかにするため,アカマツとミズナラを対象としてヒートパルス法で樹液の流速,圧力チャンバー法で葉の水ポテンシャル,テンシオメーターで土壌水の水ポテンシャルをそれぞれ測定した.それと同時に,各樹冠上で渦相関・熱収支法によって蒸発散量を別途に評価した.得られたデータを解析して以下の結果を得た. 1)TDR法は樹体の水分量を測定するのに優れた測器であり,測定精度は体積含水率で誤差±2%である. 2)樹体内に含まれる水は,日周期でも,日日変動でもダイナミックに挙動しており,樹体に貯留されている水は蒸散に重要な役割を果たしている. 3)非常に乾燥した条件下では,アカマツの場合,蒸散で消費された水のうち,5〜10%は樹体に貯留されている水でまかなわれていた. 4)樹液の流れに対する抵抗は,樹体の水分量がある臨界値に近づいた時に相対的に大きくなる.この臨界値はアカマツで11.3%,ミズナラで60%であった.
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