低線量放射線に前照射された哺乳動物細胞は、その後の放射線に対して抵抗性を示すようになり、突然変異や致死耐性となる。適応応答と呼ばれこの細胞応答の特性と情報伝達の機構及びその生物学的意義の解明を目指し、これまでに適応応答の至適線量域、持続時間、Cキナーゼ(PKC)の活性化、p38MAPキナーゼ(p38MAPK)の活性化などを明らかにしてきた。今年度は、特に線量強度識別と応答の長期持続性の分子機構に関して以下のような重要な知見が得られた。低線量放射線ではPKCαの活性化が長時間持続するのに反し、高線放射線ではPKCαの活性化には高濃度のTPAと同じように短時間で逆制御がかかる。PKC阻害剤はp38MAPKの活性化を抑制し、p38MAPKの活性阻害剤はPKCの活性化も阻害することが分かった。さらにp38MAPKは膜りん資質の分解を触媒し、PKCの活性化に働くPLCδ1分子と結合していることが明らかとなった。これらのことから、放射線に対する情報伝達はPLCδ1/PKCα/p38MAPKからなる回帰性フィードバック回路により制御されていることが示唆された。すなわち、低線量刺激ではこのフィードバック回路により応答は長時間持続するが、高線量ではPKCαの逆制御により、この回路は遮断される。
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