当研究室では、カメのゲノム中に存在するLINEとSINEの3′配列に、相同な領域のあることを見いだし、この相同領域の配列が、LINE逆転写酵素の認識に重要であり、SINEの3′領域も相同な3′配列を持つLINEの逆転写酵素に認識されるのではないかというモデルを提唱した。 我々はこのモデルを証明したいと考えているが、カメのLINE:PsCR1は、他の多くのLINEと同様に、ほとんどのコピーにおいてその5′領域が欠失しているため、その全長配列が決定されていなかった。そこでPCRを用いたゲノムウォーキングにより、PsCRl全長配列の決定を行った。 PsCR1は、全長がおよそ4.5kbpで、内部にタンパク質をコードしていると思われる領域、Open Reading Frame 1(ORF1)とORF2がみられた。PsCR1のORF2には、今までに報告されているLINEと同様に、逆転写酵素領域とヌクレアーゼ領域がみられた。これらの領域はレトロポジションにおいて、LINE転写産物の逆転写と、LINEが挿入される位置のゲノムの切断を行うものと考えられている。 PsCR1のORF1と5′UTRには、いくつかの特徴が見られたのでここで考察したい。PsCR1 ORF1タンパク質のアミノ末領域には、gagタンパク質型のものとは異なるジンクフィンガー様の配列(CX_2CX_<14>CX_2C)がみられた。このモチーフと同型のジンクフィンガーモチーフは、転写因子などを含むDNA結合タンパク質にみられる。このことから、PsCR1 ORF1タンパク質のアミノ末領域には、DNA結合能がある可能性が考えられる。もしこの領域にDNA結合能があるとすれば、ORF1タンパク質はレトロポジションにおいて、LINE転写産物と挿入位置のゲノムDNAの両方に結合して、レトロポジションの中間体を形成しているのかもしれない。 PsCR1の5′UTRには、E box(CANNTG)と呼ばれる組織特異的な発現に関わる可能性のある配列が複数みられた。LINEが頻繁にレトロポジションを起こせば、宿主の遺伝子を破壊する恐れがあるため、PsCR1はその発現を制御されているはずである。これらの制御に、PsCR1の5′UTRにみられるE box配列が関わり、PsCR1は組織あるいは発生段階特異的に発現している可能性が考えられる。 今後は、PsCR1のコードしているこれらのタンパク質が、PsCR1及び相同な3′配列を持つSINEのレトロポジションに関わっていることをin vitroで検証したいと考えている。
|