本基盤研究は、シロイヌナズナを用いて植物体の細胞間シグナル伝達機構を分子レベルであきらかにし、器官形成における役割を解明することを目的として3年間継続して研究した。(1)根の表皮細胞から根毛が分化する過程を支配するCPC遺伝子を同定して単離した。CPCタンパク質は根毛非形成細胞から形成細胞に移行して、根毛を分化することが強く示唆された。(2)HY5遺伝子は細胞分裂と細胞伸長、葉緑体の分化、などの多面的な機能を持つことを明らかにし、HY5遺伝子をクローニングしてbZIPを持つ転写因子であること、植物体のほぼすべての器官で発現すること、HY5タンパク質が核に局在することをあきらかにした。HY5タンパク質がCOP1およびDET1タンパク質とともに光誘導遺伝子の発現を制御していることを示した。(3)花芽分裂組織の形成と成長に関わるFIL遺伝子をクローニングし、HMGとzinc-fingerを持つタンパク質をコードすることがわかった。FIL遺伝子は葉や花器官の原基外側の組織で発現し、葉の裏表を決定する機能を持つ。(4)花芽分裂組織および根端分裂組織の形成と維持が異常になった二重突然変異体L12からL12a遺伝子をクローニングし、小胞体局在性のHSP90類似タンパク質「エンドプラスミン」と高い相同性を示すタンパク質をコードしていることを示した。(5)葯の開裂を誘導するDAD1遺伝子を単離し、この遺伝子産物は膜脂質から脂肪酸を経てジャスモン酸を合成する経路の最初の段階を触媒すると考えられる。(6)がく片の配置と成長が異常になったrps突然変異体を単離し、解析した。(7)根、茎、葉、花器官などさまざまな器官が太く短くなる突然変異体RH32はを単離して解析した。(8)雌性配偶体(胚嚢)の形成異常突然変異体MAAを単離・解析して、雌性配偶体が花粉管を誘導する機構について解析した。
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