研究概要 |
(1)全血用反射光センサの開発―直接血液からの反射光を計測し、ヘモグロビン酸素飽和度(SO_2)およびヘマトクリット(Hct)を検出するためのハイブリッド型センサの開発を行なった。センサの設計には光拡散理論を用い、最適な波長、センサ形状、信号処理方法等について三次元的にシミュレーションを行った。波長に関しては、従来から使用されている665nm,805nm,910nm波長に代わり、660nm,730nm,830nmを使用し、ホトダイオードとLED間の距離は2.1mmとした。牛の新鮮血を用いて、HctおよびSO_2計測の精度について検討した結果、830nm波長での反射光値で得られたHctの誤差は3.37%であった。SO_2計測に関して、830/730又は830/660とSO_2との相関を比較したところ、前者の方が精度が良いことが判明した。誤差は4.24%であった。人工心臓や体外循環装置に応用し、酸素化の評価に応用できることが示唆された。 (2)反射型パルスオキシメータの精度向上に向け、(1)の場合と同じように三次元光光子拡散論を用い、最適波長、センサ形状、信号処理等について検討を行った。波長に関しては、従来の波長である665nm/910nmに代わって730nm/880nmを使用することによって両波長における組織内への浸透距離を等しくすると同時にSO_2変化に対する線形性を増すことを目的とした。センサ形状に関しては、バックグランド信号に対するパルス信号の比率を最大にすることを目的に光源・光検出器の距離を7mmとした。成犬を用いた実験で、動脈血酸素飽和度を任意に変化させた時の反射光値を口内組織からセンサで計測した。動脈血をサンプルし、そのSO_2とHctの値を計測し、センサで得られた2波長の比との相関を解析した。730/880は660/910に比べて、低酸素飽和度の20%領域まで線形性を維持し、誤差は2.69%と優れた結果を示した。続いて、健常な被験者30名にて、指尖、前頭部、胸部での反射光脈波成分の比較を行った。結果、前頭部は指尖に比べて、脈波成分が約30%に減衰した。胸部は10%であった。また、730nm波長の脈波成分は、体のどの部位においても他の波長の脈波成分よりも約50%大きく、730nm波長の有効性が示唆された。臨床応用を前提とした健全は被験者6名を使用したセンサの評価実験では、局部麻酔下、トウコツ動脈にカテーテルを挿入し動脈血を採取し、へモグロビン量及び酸素飽和度を計測し、前頭部から得られた反射光パルスオキシメータから得られた信号との相関を求めた。730・880nmセンサが従来の660・910nmセンサに比べて優れた精度を示した。730/880の誤差は4.2%で、660/910の誤差は6.3%であった。得られた較正曲線を基に、6名の患者で長期モニタリングを試みた結果、従来のセンサに比較して、730・880nmセンサは長期間(6時間)安定した性能を示した。 (3)組織内のHctおよびSO_2を反射光で測定する研究では、血液層と無血層より成る2層組織モデルを作成し、血液層内のHctおよびSO_2を任意に変化させ、モデル表面から反射光を測定し、血液層のHctおよびSO_2の測定方法の検討を行った。この研究では、1mmピッチで46素子で構成されたマルチアレーホトダイオードを使用し、光源からの距離が12.5mmから52.5mmに変化できるシステムを構築した。照射波長は、(1)の全血用センサと同じ660,730,830nmの3波長を用いた。無血層としては、ハムを用いその厚さを0,2,4,6mmと変化させた時のモデル表面から計測された反射光値を各センサ素子で計測し、血液層のみの結果と比較検討することにより組織層の影響について検討した。結果、組織層が厚くなるに連れ、光源から遠距離のセンサ素子での感受性が増したことより、光源と光検出器の距離を選択することで、組織表面から任意の深さに焦点を合わせた計測が可能になることが示唆された。このことは、生体組織内の酸素量の三次元マッピングが可能であることを意味する。 (4)続いて、2層組織モデルにおいて、ピコ秒システムを用いて時間分解能計測を行い、モデル組織内での光伝播過程を求めた。トップ層の厚さが3mm以内であれば、光検出器を適切な位置に配置することで、トップ層の影響を受けないで2層目の計測が可能であることが示唆された。このことは、組織内酸素量の三次元マッピングが可能であることを意味する。
|