研究概要 |
1993年に採取された水月湖年縞堆積物コアのうち湖底から深さ約17mの部分(約13000年BP14C;以下年代はすべて14C年代)から約12mの鬱陵沖火山灰層の部分(9300年BP)までの424試料(約1cm間隔)を対象として、分析した。堆積物中の主要元素組成値(Fe,Mn,Na,P,Mg,Al,Ca,Ti)と微量元素組成値(Th,Sc,Ce,Sm,As,Ba,Br,Sr)を用いてR-mode因子分析を行ったところ、指標成分として(1)P,As,Ca,Na,Sr,Br(分散%=44%)と(2)Fe,Mn,Ba(分散%=13%)を持つ、2つの成分が抽出された。この(1)の指標を持つ成分と、堆積物中の有機炭素及び生物源シリカの含有量の変動に一致が見られたことから、指標(1)は生物生産性の指標であると解釈された。また、(2)の指標を持つ成分については、水酸化物相中の鉄・マンガンの含有量の変動と一致していたことから酸化還元状態の指標であると解釈できる。 酸化還元状態の変動を示す指標(2)は、炭素14年代で約11600年前に著しいスパイク状の、水酸化物相中の鉄・マンガンの含有量の増大が見られたが、それ以外には顕著な変化は見られなかった。この含有量の増大は、この時期に湖が酸化的になって湖水中のマンガンと鉄が固定されたと解釈できる。なお、この酸化還元状態と生物生産性の指標ともに変動が見られた約11600年前は、気候がヤンガードライアスから後氷期への移行年代とされている。 炭素14年代によると、約13000年前から約12300年前付近までと、約11600年前から約10000年前付近までに見られた生物生産性の増加は、共にその少し前にアデレードからヤンガードライアス、またヤンガードライアスから後氷期へと気候が大きく変化している時期と一致している。一方、ヤンガードライアスから後氷期への移行年代とされている約11600年前における生物生産性を示す指標(1)、および生物源ケイ酸含有量の減少は、気候激変による生産性の低下によるものであろう。 ただし、以上の考察は炭素14年代によるもので、年縞年代とは千年ほどずれがあるので、年代に関する論が落ちつくまで、考察は予備的なものとならざる得ない。
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