日本の絵画表現は中国の画法技法の影響を大きく受けて発展した。渡来人の持ち来たらした仏画の描法、雪舟が中国で学び、日本に伝えた、水墨山水画、着色花鳥画の画法、また、その後も中国からの作品の輸入、画論書や画法書の輸入、さらには渡来絵師の描法教授という形で各時代に影響を与え、吸収されていった。本年度はまず我国の絵画技法に影響を与えたこれら中国の描法を一つ一つ特定していくことを進めた。 中国の画論書の解読と内容の具体的把握を『歴代名画記』『筆法記』『宣和画譜』等を中心として行い、画法、絵画思想、構図構成法、用語の特定、を進め、指図を伴った『芥子園画伝』『八種画譜』をもとにして、構図法、遠近法、筆法、描法の分類を進めた。しかし、ここで大きな問題となったことは、画論書に記されている、画家の作風が、南北朝、隋、唐、五代においては作品数が少なく、顧がい之、閻立本、李思訓、王維等の画風作風を言語上知り得ても、その具体的視覚上の確認が難しいという点である。千年以上も前の作品であるので、残された作品が例え存在してもそれ自体が真筆であるかどうかという問題がまずあげられる。現在確認できる作品も中国では前時代の作品を模写して受け継ぐことが通常行われており、それらの模写が写し崩れなく残されたかどうかも大きな問題である。またこの作品、作風確認の問題と共に、描法、技法名の確認という問題が起こった。『芥子園画伝』などに指図と共に記されている描法は数えるほどしか無く、実際に使われた多くの描法で、当時も特定の描法名がなかったものが多いことと、画論書上、描法名を確認できたものが実際の作品上は幾つかの描法をカヴァーしてしまうことがあり、その中から特定するという問題も現れた。これらの問題に関しては、北宋以降の作品を中心に作品から撮影した描法サンプルごとに、記号と番号で分類して系統化していく方法を取った。
|