日本画の描法表現を追うと、一つには、中国及び一部西洋から流入した描法の影響を受けた流れと、今一つには我国固有のいわゆる土着型発展を見せる流れとがある。 この二つの流れは互いに影響を与え、時には一部融合して新しい合体形を生み、時には反発してより固有色の際だった描法として発展していく。 本研究ではこれらの流れが系統樹的にどのように把握できるかを具体化することを目指した。その結果、まず描法が生まれ発展し完成していく過程には次の九つの事柄が大きな軸となっているが明らかとなった。 (1)需要の変化による発展と衰退 (2)絵画材料の発達(描具、絵具) (3)新描法の吸収 (4)情報知識の拡大(書物、その他) (5)美意識の変化(時代性、階層) (6)思想的影響 (7)絵師個人の美的完成を目指す意欲 (8)師系の問題 (9)地域文化との関係 次に各流派の描法の分類を行ったが、この分野を描法解析研究者佐々木正子に依頼した。ここで一番の問題となったのは、描法名の特定ということである。 一つの描法は次第に変化していき、次の新しい描法となっていくことが多いが、二者の中間点の描法を、描法名的にどこまでを前者に入れ、どこからを後者に分類するか等、様々な問題が生じた。一方こうした問題が生じるということは描法が様々な影響を受けながら、その時代その時代に生き、当時の美意識に適応しているという実態の把握でもあった。 方法としては明確に確認できる描法を基準とし、そこから前後の時代へと考察を進め、一つ一つの分岐ごとにまとめ、最終的に全体像を把握する方法をとった。系統樹化の完成にはあと数年を要するが、より精度を上げるために今後も調査研究を継続していきたい。
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