平成8年度には、20歳から22歳の学生を対象として、自然な笑いの記録、分析をおこなった。正高は日本人学生を対象とし、牧野は筑波大学に留学中の英語圈の学生を対象とした。自然な笑いを収録するため、被験者には実験当初、研究の真の目的を知らせず、他の目的で来てもらったと思い来ませ、予めソファーに寝かせる。実験の準備に時間を要するからと説明し、被験者にアイマスクをしてもらい、時間つぶしにヘッドフォンを着装させ、テープからはまえもって準備した娯楽番組を流す。アイマスクをしてもらったあと、被験者の唇のちょうど真上30cmにビデオカメラをセットする。カメラをセット下あとは、実験者は実験室より退室し、となりの部屋よりハーフミラーをつうじて被験者をモニターしつつ、被験者がテープの内容に反応して笑うのを待つ。このような実験を、日本人14名、ボリビア人17名について行った結果、外国人では日本人に比べて、口角の垂直方向への運動が有意に顕著であることが判明した。 次に偽りの笑いと呼んでもよいと思われるものが、行動パターンのうえで「真の笑い」と異なるか否かの検討を行った。上述の(1)の実験が終了後、同一の被験者に対して、今度は「ごく自然に笑ってください」と言う意味の指示を出し、それを映像として収録し、(1)と同様の分析を行い、データを比較した。その結果、偽りの笑いでは、運動の左右非対称性がより顕著となることがあきらかとなった。なお、この成果はカナダで開かれる国際行動発達学会で公表された。
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