本年度は日本人であるものの欧米文化の下に発達した日系人学生を対象に、昨年度と同一の手法を用い笑いの表情を収録、分析を行った。これは 昨年度見出された欧米人と日本人との笑いの表情の差異が、人種的な要因にもとづくのか、あるいは環境的要因に帰因するのかを同定するために行われたものである。南アメリカ、ボリビアに生まれ、スペイン語を母語とする20名の日系人学生について分析を実施した結果、彼らの表情は、日本人よりもむしろ欧米人のパターンに近いことが明かとなった。よって表情の文化的差異は環境要因に帰因するとこりが大きいものと結論づけられた。その主たる要因としては 用いる言語の発声に要する口語の運動の差異が大きいのではないかと推察される、すなわち 欧米語では音楽の弁別的発声のために口唇の収縮の微妙な差異が大きな役割をはたすのに対し、日本語ではそういう必要性のない可能性が考えられる。ついで 日本人の笑いの表情を欧米人、日本人と共に 欧米人・日本人に呈示し彼らの好みを問う実験を行った。その結果は欧米人は欧米人・日系人の笑いを日本人より好むこと、また日本人でも全く同じように日系人と欧米人の笑いが日本人よりも より好まれることが判明した。それゆえ信号の発し手の形態的特徴とは全く別の次元で 表情が筋肉の動きとして知覚、判断され、受け手の好みに影響を及ぼし、かつ 欧米的な表情のパターンが 文化の差異を超えて 日本的なパターンよりも有意に好まれるという事実があきらかとなった。
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