研究の目的は脳波分析で伝統的なFFT分析に代わるMEM分析の効用を明らかにすることにある。 脳波は脳の時々刻々の変化を反映している生物学的時系列現象である。脳波は周期関数の重なりで系統的に成立する部分と、ランダム変動部分から構成され、系統的部分にはMEMスペクトル解析を組み込んだ非線形最小二乗法が最適であり、ランダム部分にはカオス解析が適用できると考える。 本研究では、系統的部分に対するMEM解析を中心とする。 一般の脳波にFFT分析とMEM分析を適用しカラー・トポグラムにより解析した比較研究から、脳活動の解像力においてMEM分析が優れていることを明らかにし、1993年にドイツで開催された国際色覚異常研究会で発表した。 これを受けて次に、複雑な看視作業時における脳波解析にMEM分析を適用し、看視者の作業経験と状況認知の相関関係を示唆する結果を得た。研究は原子力発電所・訓練研究所でのシミレイション実験として行ったが、緊急事態において、判断、決定に随伴する脳活動が当該事態にのみ対応、事態後も持続、事態に関わり無く緊張が持続、のタイプに分かれ、これらが看視作業の経験年数の長短と相関した。この成果は1997年フィンランドで開催された国際人間工学会で発表した。 最近では、縞模様パターンに見られる色の対比現象にともなう脳活動の基底変動の周期構造をMEM分析によって探索しているが、解析機器システムや実験環境の調整に手間取り、明確な結論を出すまでに到っていない。
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