「期待」、「認知地図」という概念は、1930時代に新行動主義心理学者のTolmanが提唱したものであるが、近年の認知心理学の隆盛の中でこうした概念は再度注目を浴びている。本研究は、「期待」、「認知地図」という高次な心的機能との関連で前頭連合野のニューロン活動を調べることにより、こうした概念の実態とその背景にあるメカニズムを明らかにしようと試みたものである。 「期待」に関しては、特に「報酬の期待」に焦点をあてた。具体的には学習課題において、正反応に対して動物に「報酬」を与える試行と与えない試行を用意する。また「報酬」を与える場合にも餌やジュースなどを何種類も用意する。動物は正反応に対し、「報酬が与えられるか否か」、「与えられるとしたらどのような報酬が与えられるのか」、に関して予め情報が与えられる。こうした条件で調べたところ、サルの前頭連合野には遅延後にどのような報酬が与えられるのかに関する「報酬期待」を担うニューロンが多数あることが見出された。さらに、報酬がないことの予期に関係するニューロンも前頭連合野には存在していることが明らかになった。 「認知地図」に関しては、これを空間的な地図にとどまらず、時間、場所、状況を含む「文脈」という広い概念として捉え、課題(文脈)の違いにより前頭連合野ニューロンがどのような活動を示すのかを調べた。具体的には、種々の課題をサルに訓練しておき、課題を次々に変化させる中で前頭連合野のニューロン活動を調べたところ、現在どのような課題事態であるのかを捉え、モニターすることに関係するニューロンも前頭連合野には存在することが明らかになった。
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