TylerとLindの集団価値理論では、政治的決定や権威に対する反応が人々の手続き的公正知覚によって媒介されると仮定する。この仮説が日本人の政治的反応にも当てはまるかどうかを検討した。この際、手続き的公正効果を政治的決定の受容という短期的効果と、順社会的態度・行動の増加という長期的効果に分けてモデル化した。調査は平成8年9〜10月にかけて、全国10地域から任意抽出した20歳以上の一般市民3000人を対象に郵送で行った。政治的決定として住専、薬害エイズ、消費税、米軍基地移転を取り上げ、その決定過程と日本の政治的権威(政府、行政、国会)に対する人々の評価を質問紙によって聞いた。回収率は33.1%で933名から有効解答を得た。薬害エイズを除いて、他の政治的決定の受容率は低く、これらの決定に対して市民の評価は全般的に否定的だった。しかし、共分散構造分析(EQS)では各決定に関する短期効果モデルはいずれも妥当であることを示された。このことは、政治的決定がなされる手続きを公正と見なすかどうかによってその受容が規定されたことを示している。同時に、長期的モデルも妥当であり、手続き的公正評価は政治的権威に対する人々の態度を好意的にするだけでなく、日本の社会全体に対する肯定的な見方や建設的行動を促すことを示唆している。結論として、公正が個人を社会に結びつけるという絆理論は日本人についても適用可能とみなされる。
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