日本的自己の諸相を検討するために、本年度は、昨年度に引き続き研究2、3、及び、それらから派生した「自己思いやり仮説」について研究を遂行し、以下のようにな成果を得てきている。 1。研究2:自己向上と「日本的効能感」 まず、自己についての自由記述文の分析をさらにすすめ、日本においては自己の認識が「ある一定の困難を乗り越えたり、失敗を克服して現在がある」とする自己向上スクリプトの存在についてのさらなるデータを得た。さらに、このような自己認識の形態から派生する自己批判的傾向をさらに検討する実験研究2つを行い、この傾向は、匿名性を保証しても生じること、研究者が示した領域や次元ではなく、被験者自身が自己定義している領域や次元でも生じること、そして、自分の肯定的側面より否定的側面において特に顕著に現れることを示した。 2。研究3:間接的自己肯定と精神・身体健康 昨年度実施した妊婦と助産婦に対する聞き取り調査に基づいた調査表を妊婦163名を対象に、妊娠中期と出産直後に実施した。現在データの入力中であるが、ここから妊娠・出産という事態におけるストレスとそれへの対処についての知見が得られることが期待される。 3。その他:自己思いやり仮説 日本人は、自己批判的傾向が非常に強いのにもかかわらず、自分に対する愛着も、暗黙の内に、感じるという矛盾を解決するために、日本人の自己愛着は、自分に対する思いやりであるとする「自己思いやり仮説」を提出し、これを支持するデータを得た。具体的には、暗黙の自己愛着の指標として自分の名前に含まれる文字への好みを用い、名前文字への愛着は、思いやりの傾向が強く、かつ、自分の足らない点や自分の周りの優れた他者に注意を向けられたものの間で特に強くなることを示した。
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