研究概要 |
今年度は、日本的自己の諸相について特に次の2点に焦点を絞り検討した。日本における自己の性質を理解するために「思いやり」の概念が非常に重要であるという総合的結論が浮かび上がってきた点が最も重要な成果であったと考える。 1. 「間接的自己肯定」と精神。身体的健康の関連 現在、本プロジェクトの一環として松山市の中央病院で収集した日本人データと、米国マサテューセッツ州で収集したアメリカ人データの整理を行い、現在比較、分析の途中である。すでにいくつかの知見が得られている。特に、欧米においてはself-esteem,control,self-efficacyなどが精神健康に決定的な役割を果たすが、日本においては、むしろ思いやり的関係性に参加することが重要であるという点が示されてきている。 2. 「自己思いやり仮説」:日本的自己の矛盾と統合のダイナミックス 暗黙の自己愛着を測定するために、自己関連情報に接したときの被験者の顔面表情を分析する予定であったが、種々の手続き上の問題から断念した。よって、今年度は、暗黙の自己愛着の別の指標を作製することを試みた。第1の方法では、被験者は比較的中性的意味を持つ性格形容詞を示され、まず、それらが自分にあてはまるか否かを判断し、引き続いて別の質問票としての文脈でこれらの形容詞の意味の望ましさの評定をする。第2の方法は、自己判断課題と単語の評価判断課題を組み合わせることにより、暗黙の自己愛着を測定しようとする。まず自己判断課題では、被験者は自分の筆跡と他者の筆跡を画面上に示され、それが自分のものか他者のものかの判断をする。単語の評価判断課題では、様々な評価的単語が画面上に示され、その意味が肯定的か否定的かを判断する。さらに、これら2つの課題は2つ平行して行う。その際、自分という反応と肯定的という反応とが、また他者という反応と否定的反応とが、それぞれ同じ場合(例えば、左手でキーを押す)には、その逆より反応時間が速くなるとしたら、自分とは肯定的意味を持っているはずであると推測できる。これら2つの方法を用いた3研究の結果、一貫して暗黙の自己愛着の証拠を得た。
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