研究概要 |
CRTディスプレイ上を2つの動体が同方向に水平に動くとき,その運動時間,運動距離の比較判断は,子どもにとって意外に難しい。このことは,動きのある教材をパソコンで提示する際の大きな問題であるにもかかわらず,ほとんど知られていないし,研究もされていない。この難しさの原因はなになのだろうか。そしてその原因は,発達的にどのように変わるのだろうか。これまで2年間の研究で,とくに時間判断についてはかなりいろいろなことがわかってきた。すなわち,年少児においては,出発・到着時点の同異の認知がかなり難しいこと,小学校高学年にとっては,「時間=終了時刻-始まりの時刻」の知識(知識α)が使えることに気づかないこと,そして彼らにおいては,「時間=終了時刻-始まりの時刻」の知識よりも「時間=距離/速さ」の知識(知識β)の方が活性化しやすいのではないかと思われることなどである。本年度は,この2つの知識の使い分けについて,中学生と大学生を対象に調べた。そのために,知識αで論理的に正答しうる問題,知識βで論理的に正答しうる問題,知識αでも知識βでも理論的に正答しうる問題を作成した。実験は個別的に行いプロトコルを取った。その結果,中学生は「時間=距離」の知識を一貫して用いる者が多く,大学生では知識αを一貫して用いる者が多く,大学生でも2つの知識を使い分ける者は2割であった。このような結果は,このような知識の使い分けが大変難しいこと,中学生から大学生への発達が単純ではない上に,その間に,まだ大きな発達的変化があることを示唆している。
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