本研究では1996年10月の第41回衆院選時に収集された世論調査データ、ならびに、政治報道データベースの分析を行った。その結果、世論調査の結果から以下の5点が明らかとなった。 (1)政治的洗練度の高い有権者ほど、政治報道認知、および、衆院選認知が複雑化する。 (2)政治報道認知・衆院選認知の複雑性は、テレビニュース視聴頻度よりも政治的洗練度や新聞閲読時間によって大きく規定されている(重回帰分析の結果)。 (3)有権者の政治報道認知の違いは、(1)具体的内容の有無、(2)総論-各論、(3)肯定-否定。の3次元意味空間内の位置の違いとして把握可能である(数量化III類の結果)。 (4)有権者の衆院選認知の違いは、(1)具体的内容の有無、(2)総論-否定的意味-争点、(3)平易-難解、の3次元意味空間内の位置の違いとして把握可能である(数量化III類の結果)。 (5)新聞報道に表れる「民意」は、政治的洗練度の高い層の意味のみを表していることが多く、そうした報道の仕方は、政治的洗練度の低い層の政治的意味空間への参加を抑制している可能性があると考えられる。 また、政治報道データベースの分析からは、「街の声」報道の評価基準の再検討が必要であること、および、その際の具体的視点として以下の3点が重要であることが示された。(1)人々の問題関心に焦点を定め、それを優先的に議題にしているか。(2)人々の「賛否」の表層を追うのではなく「なぜ、どういう意味でそう思うか」を自分の言葉で語ってもらっているか。(3)さまざまな人々の「意味づけ」を「正確性」と「多様性」に配慮して報道するとともに、共に考える契機を作り出そうとしているか。 以上の結果は、有権者の政治的意味空間への参加を促進/抑制する条件について検討する上で不可欠の視点と経験的資料を提供するものである。
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