本研究は地方都市の政治構造を市民意識と市民文化の視点から解明することを意図したものである。われわれはその目的に照らし、山形市、富士吉田市、備前市を研究の対象として取り上げ、統計調査(量的観察)と聞き取り調査(質的調査)を実施した。 われわれが獲得した成果は複数であるがとりわけ山形市と富士吉田市調査と通じてえた以下の結果は重要である。 全国的にみて有数の多選首長都市である山形市、山形市とは対照的に多選阻止の政治構造を特徴とする富士吉田市。われわれの調査はこの対照的な二つの地方都市の政治構造が、深く、市民意識と市民文化に規定されていることを発見した。すなわち、われわれは、山形市の政治構造は「あがすけ」を否定的にみる山形の市民文化と密接に関連し、富士吉田市の政治構造は派閥と無尽に代表される富士吉田市の市民文化に規定されていることを確認した。多選の政治構造も多選阻止の政治構造も、ともに、市民文化と市民文化を支える市民意識と深く関連する。地方都市の政治構造と市民文化とが密接に関連しているという点で二つの都市は共通する性格を有している。おそらくそれはここにみた二つの都市に限られない。二つの都市の事例は日本における地方都市の政治構造の解明に市民文化の視点が必要であることを示唆している。 一方、備前市は、山形市や富士吉田市のような、政治構造に関連するような個性的な市民文化を有していない。かつて、日本を代表するレンガ会社に地域経済と市民生活が全面的に依存していた備前市の場合、市民生活は政治を媒介することなく実現されており、政治構造と市民文化が深く絡む様相を示していない。 われわれの調査によれば、日本の地方都市には政治構造が市民文化に強く規定される地方都市と市民文化に深く規定されることのない地方都市とが存在する。それぞれのタイプの地方都市のが示す都市の動態を都市の歴史や経済構造と合わせて解明する研究が今後の課題として設定されるであろう。
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