本研究のまとめの年である今年度は、まず、昨年同様に同和地区の保護者を中心にインタビュー調査を行ない、そのテープ起こしと分析を手がけた。しかし、インタビュー調査を中心とする研究は、分析において時間を要するうえに、調査協力者の方々のプライバシー保護に十分に配慮する必要があるため、今後も時間をかけて、さらにインタビュー等の補足調査を重ねたうえでまとめを行いたいと考えている。他方、今年度は、平成8年度に実施したアンケート調査データをもとに、同和地区と一般地区との比較という視点で、地域差・階層差が、子どもたちの定位家族における子育てと親子関係、子どもたちの生活状況、保護者にみられる子育て文化の世代間継承といった諸要因を媒介要因として、子どもたちの学習状況および"生活実現力"に格差を生みだしている諸要因の相互連関を明らかにするとともに、社会的再生産のメカニズムについて考察し、報告書にまとめた。 本研究では、同和地区の子どもたちの学力が一般地区よりも相対的に低いことの一因として、学校外での学習時間の短さが関連しているが、学校外での学習時間の短さには、子どもたちの定位家族のなかで形成された進路目標の低さや曖昧さが関連していること、また、同和地区の子どもたちの進路目標の低さには、親の子育てにおける進路期待の低さが関連していること、さらに、親の進路期待の低さと階層の低さが関連するが、同和地区の親の階層の低さに同和地区であるという地域差が関連していることなど、興味深い知見を見いだすことができた。 今後さらに、本研究において見いだされた、社会的再生産のメカニズムが同和地区と一般地区とでは異なることや、現代では階層差を越えて子育ての平準化が認められることなどについて、理論的実証的研究を積み重ねながら、社会的再生産論の精緻化を図りたい。
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