本研究では、(1)(旧)オウム真理教の思想並びに行動と、それへの地域社会及び一般社会の反応(反発)の対応関係の分析によって、「豊かな社会の貧しさ」とでもいうべき両者に共通の時代-社会的背景を明確にするとともに、(2)オウム真理教側の一人よがりな自己主張や身勝手な自己正当化と、地域社会及び一般社会の側のエゴセントリック(エスノセントリック)な他者排除の論理や通俗道徳への無批判的埋没との共軛関係を解明することで、(3)現代という時代と日本という社会の意識-文化状況の特性の一端を抉り出したいと考えている。 本年度は、もっぱら上記の目的を達成するための基礎資料の収集と整理に努力を集中した。そのため、まず研究代表者の前任校である熊本大学に保管してあるサリン事件以前の関連資料の整理を片付けた他、新たに熊本県、静岡県、山梨県などの(旧)教団施設の所在地での行政及び住民からの聞き取り調査を数度にわたって実施するとともに、教団の出版物、関連の新聞・雑誌(週刊、月刊その他)記事、単行本等の文献の収集、及びテレビ番組の録画などを継続することで、当初の予定以上の資料を収集することができた。また、オウム真理教問題を研究している他の研究者(主として東京在住)とも、適宜、資料及び情報の交換を行なった。これで、今年度の所期の目標は、ほぼ達成できたと判断している。 ただし、収集資料が膨大な量にのぼったために、かえってその整理作業に手間取ることになり、この点ではいくらか作業を次年度にもちこすことになった。また、当初予定していた(元)教団関係者からの聞き取り調査は、種々の微妙な事情により自粛している。この点も、今後次々と明らかになる同教団関係の裁判記録の収集とともに、次年度に期したいと考えている。
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