本研究では、(1)オウム真理教の思想並びに行動と、それへの地域社会及び一般社会の反応(反発)の対応関係の分析によって、「豊かな社会の貧しさ」とでもいうべき両者に共通の時代-社会的背景を明確にするとともに、(2)オウム真理教側の一人よがりな自己主張や身勝手な自己正当化と、地域社会及び一般社会の側のエゴセントリック(エスノセントリック)な他者排除の論理や通俗道徳への無批判的埋没との共軛関係を解明することで、(3)現代という時代と日本という社会の意識-文化状況の特性の一端を抉り出すことを目指した。 上記の目的を達成するため、初年度(8年度)はもっぱら基礎資料の収集と整理に努力を集中し、次年度(9年度)は、それら既収集資料の整理と分析に力を注いだ。同時に、熊本県、静岡県、山梨県などでの現地調査も昨年度にひき続き実施した。また、オウム真理教問題を研究している他の研究者(主として東京在住)とも、適宜、資料及び情報の交換を行なった。 最終年度(10年度)は、収集資料の整理と分析に集中するとともに、若干の補充調査を実施し、一応の研究成果報告書を作成することができた。残念ながら、今なお当初の目的を十分に達成するまでには至っていないが、少なくとも山梨県上九一色村と熊本県波野村によるオウム真理教への対応を克明に記述・分析することで、同教団の言動とそれへの一般社会の対応に見られる一種の共鳴関係の中に現代社会の特質の一端を探るという、本研究の中心課題については、一定の成果を上げることができたと考えている。
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