本研究は、アメリカ合衆国における精神薄弱者の生活の場が、1910年代以降、施設内での隔離から部分的にコミュニティへと転換を始める過程において、それを可能とした施設内部および社会的条件、そして、社会に受容される精神薄弱者の理想像を、断種との関連において追求するものである。 本年度では、第一年度に引き続き基礎資料の収集を継続した。それとともに、これまで収集した資料の分析によって、研究主題に関わるいくつかの問題を明らかにした。第一に、精管切除術の導入が拡大した理由は、治療以外の目的で断種を初めて実施したH.H.シャープの所論に代表されるように、婚姻制限のような生殖防止の方法の効果が疑わしかったこと、また、断種術が安全で簡便な術法であったことと並んで、断種により行動・心身の改善を伴うと主張されたことにあった。第二に、20世紀初頭においても主たる生殖防止の方法であり続けた隔離施設が、施設への入所需要に応ずるほどには各州で増設・新設されず、有効性ある新たな他の生殖防止の方法が求められていた。 なお、断種の唱導における専門職、なかでも医師の高い役割意識が顕著である点と、精神薄弱者の処遇が社会問題の一つから国家的・民族的問題に上昇した点、そしてこれらの動向と20世紀初頭におけるアメリカの国内的・国際的状況という社会背景との関係、施設に子どもを入所させた親および当人のニーズと願望、事態の変化に対する精神薄弱者施設長の意識と施設の役割の変化、そして施設における断種の実施状況等については、現在検討中である。
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