研究概要 |
本研究の目的は、昌平校留学者の分析を通して、諸藩における教育文化の展開の諸相を解明することにある。初年度の本年は、基礎資料の整理に力点を置き、昌平校留学者の氏名の特定を行って、彼らの個人情報を調査収集することに重点を置いた。 基礎資料の整理では、林羅山が寛永7年(1630)に幕府の援助を受けて江戸に開き、その子孫が代々継承して経営した家塾(林家塾)に入門した者の名簿である「升堂記」(東京大学史料編纂所所蔵)10巻・8冊の調査・整理を主に行った。「升堂記」には、江戸時代から明治20年代に至る約260年間に林家塾に入門した2,786名の氏名・入門年月日・口入人(紹介者)・身分などが記載されている。これらの分析は次年度以降においても継続し、林家塾入門者の全体像を明らかにするとともに、昌平校留学者が藩校教育に及ぼした影響や文化交流の軌跡などの検討を通して諸藩における教育文化の展開の諸相の解明、につとめることにしたい。 昌平校留学者の個人情報の収集については、人名辞典・伝記・日記等の調査を通して一定程度の成果を得ることはできたが、さらに資料の収集・分析を重ねなければならない。 なお「升堂記」は江戸時代において、もっとも長く記載様式の整った入門簿として、その史料価値は極めて高いことに鑑み、本研究の第一次報告書として『「升堂記」(東京大学史料編纂所所蔵)翻刻ならびに索引』を刊行した。
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