本研究の課題は、昌平校留学者の分析をとおして、諸藩における教育文化の展開の諸相を解明することである。この課題を達成するために次の2点を達成目標として設定した。 (1)諸藩からの昌平校留学者の全体像を把握するための基礎資料として、昌平校及びその教官家塾の入門者の氏名・属性を網羅的に調査・復元する。 (2)昌平校留学者の学習活動と帰郷後諸藩での教育改革・教育実践に彼らが果たした役割を調査する。米沢、尾張、佐倉など数藩の事例を重点的に調査・分析し、昌平校などで留学者が見聞した教育理念、学校経営法、授業法、祭祀等々が諸藩の教育の在り方にどのような影響を及ぼしたかを明らかにする。 (1)については、代々江戸幕府の儒者を勤めた林家のもとへ入門した者の名簿である「升堂記」、非幕臣を対象とした幕府の正規の教育機関として開設された書生寮に入寮した者の名簿である「書生寮姓名簿」及び幕府の儒者を勤めた河田迪斎の私塾の門人帳である「登門録」を調査し、データベース化を図るとともに原本のレイアウトに近いかたちで翻刻した。『「升堂記」(東京大学史料編纂所所蔵)翻刻ならびに索引』・『「升堂記」(東京都立中央図書館河田文庫本)翻刻ならびに索引』・『「書生寮姓名簿」「登門録」翻刻ならびに索引』の3冊がそれである。 (2)については、米沢藩・尾張藩・佐倉藩について調査・検討を進めたが、成果を発表するまでには至っていない。
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