研究概要 |
製鉄場で使用する木炭には,製鉄炉の中に砂鉄と交互に装入し,加熱還元するための大炭と精錬場(鍛冶場)で錬鉄を製造するときに使用する小炭の2種類があった。江戸後期に下原重仲が著した『鉄山必用記事』によると大炭用材としてはマツ,クリ,マキが最上とされ,30年以上を経た太い材を使用することが多かったとされている。製鉄に使用する大炭の消費量はぼう大な量にのぼり,江戸後期の史料によると1回の製鉄作業に使う量は,砂鉄13〜18tに対して大炭も14〜18tを消費したとされている。砂鉄の消費量と同じかそれ以上の量の木炭が必要であった。したがって,製鉄場を選定するに当たっては,まず近くに薪炭林が存在していることが重要な条件であったのである。 近年になって、このような製鉄用の木炭を焼いたと考えられる炭窯の発掘調査例が見られるようになってきたことは,製鉄技術の実相を明らかにしていく上で大きな意義を持っているといえる。 本年の第1年次の研究では,まず古代から近世いたる製鉄用木炭窯の調査資料の収集から着手した。その結果,古代の横口付木炭窯については,ほぼ集成することができた。また,木炭窯の構造や変遷を明らかにするために木炭窯跡の発掘調査と文献資料の調査を行った。木炭窯の発掘調査は,中世および近世の頃と推定される遺跡について実施したが,それぞれ各時代の特徴を示す構造を持っており,木炭窯の編年を明らかにする上で良好な資料となった。製鉄用の大炭製造法は,窯内消火法と呼べる方法である。窯の形態は犠牲材のできやすい焚き口から焼成室前よりの容積を小さくし,良炭ができる焼成室奥部を大きくすることが必要であったが,本年の研究調査によってもそのことを裏付けることができたといってよい。
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