明治期の国語調査委員会の実施した口語法調査の結果の分析・データベース化および地図化は、順調に進行している。当時、全国各地から集められた資料には自ずから精粗があり、また地名などにも現在と違うところがある。現地の音声の表記も仮名によっているため不正確なところがあり、ことに拗音表記や促音表記について不分明な点が多かったが資料の分析にあたっては、慎重の上にも慎重に取り扱った。 この研究は、過去に集められた方言資料を対象とする文献批判的研究(文献方言学)として、先駆的なものである。日本各地に伝えられた伝統的方言は、日本語の本質・日本語の歴史を考える上でのかけがえのない資料であるが、いまや全面的崩壊の危機に瀕しており、現地調査などによって伝統的方言を求めることは、日に日に困難さを増している。過去に集められた方言資料の価値が、相対的に増していくことは必然的な帰結なのである。 今年度の研究は、昨年度に引き続き、会合を重ね、着実に進行している。多数の協力者は真剣に資料の分析・データベース化および地図化に従事しており、研究代表者としては、心から感謝している。明治の国語調査委員会の関係者(上田万年・新村出ら)も泉下で喜んでいるに違いない。この研究が完成し、データベースおよびそれにもとづく分布地図が公開されることになれば、学界に大きな衝撃を与え、今後の研究の刺激となるに違いない。
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