本年度は昨年度に引き続きヤク-ト語等のテキストデータの分析をすすめた。北方シベリアにおいて比較的勢力を有するヤク-ト語とヤク-ト語に近い言語のドルガン語を中心に扱ったのは昨年と同様であるが、本年はこれらの言語に加え、時代をさかのぼってのウイグル語、北西部シベリアのチュルク系言語のデータを合わせて語彙、形態のレベルを主として検討した。本年度、得られた知見としては以下のようにまとめることが出来る: 1)北方のチュルク系言語には本来のチュルタ語の形式が残存している一方で、ツングース系やモンゴル系の言語からの影響が及んでいるがそれらはヤク-ト語をはじめとする北方への移動のプロセスを経たチュルク系言語が段階的に有しているものである可能性がある、 2)これまでも研究されている基層言語としてのツングース系、モンゴル系の他にサモエ-ド系言語からの影響も特に北西部シベリアのチュルク系言語では無視できない、 3)言語によって程度の差があるとはいえ、今世紀の初めの北方諸言語のデータの分析にあたり、今日では協力を求めることの出来る話者をみつけることが現地においても困難を伴い今や「消滅の危機に瀕した言語(=「危機言語」)」への位置づけが急速に進んでいるという情報がある。 以上の知見を得るにあたっては本年度科研費補助金により購入した多くの地図、統計データや言語文化・民族学関係の資料を活用し、これらから抽出することが出来た。得られた情報はコンピュータ入力などによりデータとして蓄積した。来年度はより包括的な視点から本研究をまとめる段階に進みたい。
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