本年度はこれまでのデータの電子化による構築に加え、サンクトペテルブルグのプーシキン博物館所蔵の音声資料テープの中から購入済みの資料全体を包括的に概観し、これら資料の中には語り文のテキストのみではなく、歌唱なども含まれ、ジャンルが多岐にわたるものであることを確認した。とはいえ、その中の少なからぬ資料は、録音状態が悪いためテキストとして整理するにはきわめて困難であった。しかしながら、現在進行中のチュルク系言語ヤクート語のテキストについては分析可能の見込みである。本年度中の刊行はかなわなかったが、順次、印刷公表していきたい。 研究対象としたシベリアの諸言語の音声資料はほぼ今世紀にそれぞれの言語話者から採録されたものであるが、それら言語のいくつかについては帝政ロシアの東進に応じて、多くの出版物や未刊行の記録が残されている。本研究課題に取り組む過程で研究代表者、分担者は、前世紀からロシア領内のアジア地域からやはり同じくサンクトペテルブルグに様々な契機により将来された文献類を目にする機会があった。一例をあげれば、ヤクート語に訳されたギリシア正教布教のための翻訳文献がロシア科学アカデミー東方学研究所に特に研究対象とされず残されていた。これら一連のシベリア地域の先住民言語の記録は昨今の社会情勢を考えれば、以前よりは研究対象としてアクセスすることが可能となってくるであろう。本研究課題に取り組んだ3年間の間にさえ、シベリアの諸言語のおかれている状況はその話者数の激減をはじめとして様々な点で意志伝達の手段としての価値を急速に失い、所謂「危機言語」に近づきつつあると言っても過言ではない。本研究課題で目指した総合的な言語研究に加えて、音声資料はじめ多種の文献資料も含めて、散逸あるいは埋没しつつある資料の収集と整理はこの分野の研究者の責務であることをも確認した。
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