研究課題
翻訳におけるオリジナルのズレ、すなわち広義の「誤訳」を、一種の創造行為として積極的に評価しようとする態度が本共同研究の出発点であった。その際、二種類の異なる言語間の翻訳のみならず、古典の現代誤訳といった同一言語内の翻訳や文学と美術、ないしは文学と音楽といった異なる表現媒体の交換行為を視野に入れるため、さまざまな分野における専門家を研究メンバーとして揃えた。各研究分担当者は初年度の1996年に、各自の専門分野における翻訳の問題に関する資料の収集を開始し、それぞれの問題意識に基づいて、「創造的は誤訳」という課題の項目別テーマを絞り込んだ。翌1997年度からは十数回にわたる研究発表会と討論会を行なった。発表テーマは、西洋語を日本語に翻訳する際に人称その他の扱いに関して生じる問題を誤訳の例を上げながら考察するという「翻訳というテーマ」を考えるにあたっての基礎となる発言から出発して、外国文学翻訳における文体の変遷を通時的に扱ったもの、文学作品の映像化に際してオリジナルとの間に生じたギャップを考察したもの、音楽劇などを上演する際に台本の図書に生じた間隙を演出がどのように埋めてゆくかを検討したもの同じ題材が音楽劇を台詞劇という二つのヴァージョンにおいて、どのように異なった扱いを受けるかに関する討論、現在使われなくなた古代文字の解読に際して生じる問題など、きわめて多岐にわたった。その結果、翻訳という概念を、異文化、異なるメディア、異なる時代など、「代者」との遭遇によって生じる創造行為として多角的な視点から見直し、各自の専門研究にフィードバックすることが可能となった。その直接の実りは研究成果報告書にまとめられる予定であるが、11の研究発表における学術論文をはじめとして、さまざま著作やエッセイにも研究の途上でもたらされた実りを見ることができる。
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