本研究では、都市集積のもたらす経済的便益と費用を計量経済的に測定することによって、大都市集積が果たす経済的役割を明かにすることに力点を置いた。生産面においては、都市集積は企業の生産性を向上させる。しかし消費面においては、都市集積の経済と不経済の両方が存在する。前者は多様性の経済と呼ばれるものであり、差別化された多様な財・サービスおよび職業の中から自分の嗜好に合ったものを選ぶことができることをに由来する。後者は、過密の弊害であり、地価高騰を通じて狭小過密住宅や長距離通勤・混雑を余儀なくされることによって生じる。本研究では、このような集積の経済と集積の不経済のいずれが支配的であるかについて、わが国の都市データを用いて計量分析を行った。 分析 の結果、生産においても消費においても、集積の経済が集積の不経済を上回ることが実証された。また、生産面での集積の経済は名目賃金を押し上げ、一方、消費面での集積の経済は実質賃金を押し下げていることが明らかになった。東京ー極集中というのは、従来、家計にとってネガティブだと考えられていたが、本研究では、多様性の経済が効用水準を押し上げるというポジティブな側面があることを示した。 本研究では、都市環境の影響をコントロールするために、さまざまなアメニティや環境変数を用いた。この研究の副産物として、都市単位のデータベースが整備できたので、さらなる研究を今後続けていく上で大きな助けとなるであろう。
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